SDGs(持続可能な開発目標)と文化遺産

 文化遺産においてもSDGsの枠組みの中で議論されることが増えつつあるが,少し考えを整理しておきたい。

 文化遺産の持続的発展においては,大きく2つの観点がある。

  1. 文化遺産そのものの持続性

  2. 文化遺産による社会の持続性

文化遺産そのものの持続性には,対象となる遺産そのものの保存や,それが維持されるための経済的自立性の確保が求められる。およそ文化遺産の〈保存〉の問題といって良い。

 

一方,文化遺産による社会の持続性とは,文化遺産を〈活用〉することでいかに社会が活力を得て持続的に発展するか,ということにある。

 

文化遺産そのものの持続性(保存)なくして,それを活用した社会の長期持続性はあり得ないので,AはBの条件になることが大前提ではあるが,周辺社会が持続的に発展しないと,指定文化財の他は維持ができずに失われていく時代にあるという少子高齢化や地域格差,文化のグローバル化の問題もある。より具体的に,文化遺産における持続的発展における今日的な問題を示すとすれば,以下のような問題に代表されるだろう。

 

・Bがより重視される近年の社会情勢において,Aが脅かされる危険性はないのか?

 

→建築遺産等のモノを伴う場合に,過度な利用がオリジナリティーを消耗しないか?

 

→文化的景観や歴史都市等の生活や営みを伴う場合には,社会や文化の緩やかな変化はどこまで許容されるのか?

  

・Bの具体的な方法は?

 

→文化遺産の保存や利用におけるコミュニティー参加は効果的な方法だが,行政的な管理領域の大きい日本において,どのような参加のあり方がありえるのか?

 

→文化遺産の本来的な用途とは異なる利用が活発になりつつあるが,どのようなようとまで許容されるべきか?

  

・Aのための保存や再建方法や理念はより柔軟になりつつあるが,どの程度の行為が許容されるのか?

 

→現状維持が求められる本質的な対象や範囲はどのように定められるのか?

 

→付加することのできる施設の用途や意匠はどのように定め,評価していくのか?

  

・Aの対象は選択的に優品を絞り込み,Bの対象は裾野を広げていくことが現実路線としての方向性であるが,双方の対象をより一体化していくためには何が必要なのか?

  

 国内各地で現在進行形で検討されているこうした課題に関して,様々な事例を集積しつつ検討していきたいと考えています。