
筑波大学世界遺産学学位プログラムはエジプトのアレキサンドリアに位置するE-JUST(エジプト・日本科学技術大学)のHeritage Studies Programと学術交流を行っています。今回、本学の肥後先生とエジプト人学生の修士論文の審査の機会に現地を訪問し、論文審査に参加するとともに、今後の学術協力についての協議やカイロとアレキサンドリア近郊の遺産の現場や博物館の視察をしました。HSプログラムは今年から新たにAcadmic Programとなり、これまで以上に多くの修士・博士課程の学生の入学が予定されており、学生の相互留学を活発に進めていきたいと考えています。

今回は大学訪問の他に、今後の共同研究サイトや連携組織を拡張するための検討を目的に、E-JUSTの菊地敬夫先生のご案内のもと、複数の考古学サイトや博物館等を訪問しました。
E-JUSTの近傍に位置する世界遺産(危機遺産リストにも登録)であるコプト教の聖地、アブ・メナ遺跡に関連して、現役のコプト修道院や巡礼路の一部であったと考えられる港湾や教会、ワイン工房跡の考古学サイト等を視察させていただきました。

また、カイロのギザ地区にオープニング間近のエジプト大博物館(GEM)に付属する保存センターを訪れ、開館に向けた展示品の準備状況や保存状況を見学させていただきました。

同博物館に復原・展示が予定されているクフ王のピラミッド脇から取り上げられた第二の太陽の船の復原修復のサイト見学の機会もいただき、現場の日本側ダイレクターをされている黒河内先生より展示までの計画やチャレンジについて詳細な解説をいただきました。

カイロのJSPS(日本学術振興会)の事務所では、所長の深見先生と、E-JUSTとの今後の連携のあり方や、エジプト人学生の日本留学等についてご相談し、また深見先生が近年取り組んでおられるカイロ旧市街の保存記録事業についてお話を伺いました。近年、登録された歴史建築においても取り壊しが生じたケースがあり、また歴史地区内では大型道路開発によって町並みや地割に大きな変化が生じているとのこと。

歴史建築の記録と、それらに現代的用途を追加・更新するための計画策定、そして地域の伝統文化や地域意識発現のための住民参加プログラムへの取り組みについても伺いました。
その後に旧市街のイスラム地区を視察しましたが、歴史建築の保存と現代生活のための新陳代謝を両立させることの難しさを強く感じるところでした。

その他、遺産の現場をフィールドミュージアムとして情報提供する仕組みを検討するために、カイロのシタデル地区やサッカラ遺跡の視察を行いました。シタデルではE-JUSTの建築学の先生が遺産の保存管理と観光・学習を目的とするデジタルツインの構築検討を進めており、そちらとの連携も図っていきたいと考えています。

また、サッカラでは過去に多数の貴族墓や神殿において発掘調査が進められていますが、公開されているのはごく一部であり、またそれらも現場で過去の研究成果や関連する出土遺物に関する情報を得る手立てがない状況です。遺跡の現場でより魅力的な体験を実現するための手段が求められており、こうしたテーマでの共同研究についても検討していきたいと考えています。
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