7月20日から29日にかけて、中国四川省の成都市と邛崃市にて建築遺産演習を実施しました。
各所で開催されたシンポジウムと交流会、勉強会にも参加し、中国と日本の文化遺産の近年の研究や取り組みについて広く共有することができました。また、平楽古鎮を中心として歴史地区を訪れ、伝統的建造物や景観の保存と観光開発の実態を観察し、いくつかのテーマに対して調査を行いました。学生グループによるこうした調査成果は、最終日に成都市内で四川省、成都市の関係部局の担当者や関連学会の先生方に発表し、コメントをいただくことができ、実践的な演習になりました。
成都市では「四川-日本文化遺産保護学術交流シンポジウム」が開催され、本学世界遺産学プログラムの教員4名も参加し、両国の専門家から文化遺産にかかる最新の研究課題や遺産保護事業について紹介がありました。
中国における考古学遺産や歴史地区を核とした大規模な地域開発に関する近年の事業や将来的な計画案は、潜在的な経済効果の追求と、潜在的な埋蔵文化財の破壊との両側面をもつもので、中国ならではのダイナミズムを感じるものでした。また、中国政府による東南アジアや中央アジアでの国際的な文化協力の最近の状況に関する報告は興味深いものでした。
(写真は日本から訪れた教員と学生の集合記録)
チュンライ市では「日中青年建築遺産保護交流会」が開催され、重慶市日本政府領事館からの領事のご出席と挨拶も賜りました。また、チョンライ市からは歴史的な酒造りの伝統と近年のプロモーションにかかる紹介もありました。下田からは、日本における近年の建築遺産の保存活用の課題や挑戦について報告しました。
日中学生と教員から、伝統集落における具体的な保存や活用に関する事例紹介や研究テーマについて報告する勉強会も設けられました。四川省の西方に位置するチベット族の集落についての事例紹介は興味深く、近年の大地震によって放棄された集落の歴史研究と、観光資源としての歴史的遺産の再利用と創造的文化との融合のあり方について、魅力的な話題提供でした。
日本人学生からの研究紹介もあり、中国の先生や学生からのコメントや対話を通じて、東アジア全体での共通性と両国間での相違の双方を感じることができたのではないかと思います。
演習の中心的な活動対象地となった平楽古鎮では、多様な文化的資源を収集し、来訪者受け入れのための各種サービスや施設をマッピングし、学びのあるまち歩きや情報提供のあり方を考えました。
平楽古鎮は2005年頃から観光開発が急速に進められ、現状では歴史的建造物は地区中央を流れる河川に架けられた石橋と、数棟の伝統的な木造家屋や別地区からの移築建築を残すのみです。しかしながら、地域全域は伝統的なデザインのファサードに飾られた建物に埋め尽くされています。こうした状況は中国国内で文化財指定されている極めて多数の歴史古鎮に共通するところで、こうした新たに想像された伝統らしき景観の実情を理解するところから調査は始まりました。
チュンライ市内に位置し、より伝統的な建築が豊富に残されている火井古鎮も訪れ、観光地化されていない集落の状況についても観察する機会を得ました。そこでは、1800年代から現在に至る建物が同一の通りにモザイク状に立ち並び、ある意味で統一感のない町並みですが、こうした状況が観光化の手が加えられる以前の本来的な歴史を継承した地域の姿であるようです。
チュンライ市副市長であり、建築史を専門とする大学教員でもある李先生からは、この地区内ではきょとなっている歴史建築を文化交流センターとホテルに改修する事業計画について紹介いただきました。こうした事業によって観光化が開始されることと思いますが、来訪者の受け入れや地域住民の意識の変化によって、現状の歴史的町並みにどのような変化が生じるのか興味が持たれるところです。
さて、平楽古鎮は、南方シルクロードにおける一拠点として古くより栄えた地区で、多様な歴史と文化が重層しています。
ここでの演習では、学生は3つのグループに分かれてそれぞれのテーマで調査を行いました。
1つめのグループは伝統的な建築と町並み調査です。歴史地区内で進められた伝統的建築の観光地化に伴う改変の現状を評価し、各通りに適した保存と改善方法について考えました。
2つめのグループは、水運の拠点として歴史的に栄えたこの地区に横断する河川とそこから引き込まれた水路周辺に展開する水辺や親水空間の現状と新たな楽しみ方について考えました。
3つめのグループは地域の歴史・文化的な魅力を探し、それらを体験することのできる地域全体を周遊する動線計画やプログラムを考えました。また、こうした魅力の発信方法についても検討しました。
こうした調査にもとづく学生の分析と提案は、最終日に四川省と成都市の行政部局の担当者や、土木建築学会等の先生方に発表し、これまでの当局による取り組みや、住民生活の現実的な課題等について実践的な助言を得ました。
多くの学生にとっては、歴史地区での調査は初めての経験であったことと思いますが、それぞれに学生ならではのユニークな提案や、各通りの丁寧な分析もあり、関係者からもこうした学生のアイデアはたいへん好評でした。
来年以降も、成都市周辺の歴史地区での共同調査を継続していく提案があり、こうした学生の実践的な学修の機会を、両国の学生交流と、行政担当者や研究者と学生の対話の場として展開していくことを検討したいと思います。
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