2021年より5年間にわたり実施してきた科研「クメール王朝の都市構造と社会基盤の解明-高精度地形情報を利用した実査より」の最後の現地調査を2026年2月23日から3月21日にかけて実施しました。
サンボー・プレイ・クック遺跡では,都城区内の政庁地区に想定されるエリアでの考古学的調査と寺院区での三次元記録と建築復元を目的とした調査を実施しました。
大プレア・カーン遺跡群では,都市中央に配置された大規模伽藍の建築調査の他,都市内外に点在する遺構の悉皆調査,そして都市の外郭構造の確認に取り組みました。
加えて,同時並行して奈良文化財研究所のチームによりアンコール・トム内の西トップ近傍での水路調査が実施されました。
M78/79サイト:都城内部の統治関連地区の解明へ
都城中央付近に位置するM78/79サイトにおいて、地下探査(GPR)および発掘調査を実施しました。
本地点は、過去に道路整備に伴う側溝掘削を契機に発見され、部分的な発掘調査を行っていましたが、近年実施された航空測量調査による精緻な地形データを踏まえて,さらに調査を進展しました。
今回の調査では、以下の点が明らかになりました:
- 地下探査により、壁体に囲繞された敷地中央部に複雑な形状の地下遺構が確認。その他にも敷地内には線状の地下遺構の存在が推測。
- 東辺と南辺壁体中央部での発掘調査により、壁体構造を確認した他、煉瓦祠堂における発掘により、それらの建造年代を推定する手掛かりが確保。
- 多数の出土遺物の器種構成から、宗教施設とは異なる性格であることが推定。
これらの成果から、本サイトは政庁的機能あるいはエリート居住区画であった可能性が強く示唆されました。
これまで,この遺跡群では多数の宗教施設が組積造遺構として確認されてきましたが,それとは異なる統治に関連した政庁もしくは王宮などの存在が推測され,都市内の構造を推測する重要な手がかりとなりました。
今後は,当地区におけるさらに面的な発掘調査によって,地下に存在が推測される遺構の構造を明らかにしていきたいと思います。
北寺院プラサート・サンボーにおける三次元記録と復元研究
約400m四方に展開する遺跡群内でも最も大規模な伽藍であるプラサート・サンボーの三次元形状記録に取り組みました。
昨年2月に実施した記録を補填・拡充するもので,今回は煉瓦造祠堂であるN15, N16, N17, N18, N22遺構の他,境内の地形や樹林を含めた空間全体の記録を行いました。
その他に,修復工事が完了した直後であり,とても状態の良いZグループにおいても三次元記録を行いました。
プラサート・サンボーでは記録した三次元形状モデルを基盤としたデジタルツインの構築を目指しています。ここでは,1)既往の研究成果を統合・共有すること,2)遺構の挙動や樹木の変状をモニタリングすること,3)遺産管理と修理保存を記録し今後の介入計画のシミュレーションをすること,が目的とされます。
また、2006年に作成したリスクマップを基に、構造的危険箇所を再確認し,過去20年間での変化の分析を行いました。
構築を試みるデジタルツインには,建立当初の姿を復元した三次元モデルを統合し,学習や観光における情報提供にも利用することを計画しています。
今回は主要な煉瓦遺構であるN1, N7, N8, N18祠堂の復元調査も行いました。
大プレア・カーン遺跡群における予察的調査
コンポン・スヴァイのプレア・カーン遺跡群は,クメールの地方都市の中でも規模が大きく,王都であったヤショーダラプラの東側に位置する重要拠点であったと考えられます。
11世紀から13世紀にかけて,段階的に造営されたと考えられており,長期にわたり重要な都市であったようですが,過去に行われた研究は限られています。
本科研の最終調査ではありますが,今後の継続する研究の展開を見据えて,今後の研究テーマを検討する調査を行いました。
調査では,都市内外に分布する遺構の悉皆調査を行った他,特に都市の外郭施設となる環濠と堤防の構造について,航空測量による地形データと見比べるかたちで各所での確認を行いました。
また,都市中央の寺院境内をはじめとして,都市内部の各所には大量の土器や陶磁器が散乱しており,かつての社会生活の様相が色濃く残されているように看取されます。
こうした遺物の表採調査や,点的な試掘調査による層序の確認によって,都市内各所の土地利用を明らかにしていくことが期待できます。
都市の西側に位置するある遺構では,全長4mもの巨大なコブラの抜け殻に出会いました。この遺跡群の守り神でしょうか。。
今後の研究の成功を約束する遭遇であることを願うばかりです。。。
この5年間で多くの成果と,さらに多くの新たな謎,そして次の研究に展開すべく課題が多く得られたように思います。幸いにも,本調査期間中に,続く5年間に研究が継続できる見込みが得られましたので,さらに発展的かつ新たな課題と対象にも取り組んでいきたいと思います。
まずは,しっかりとこれまでの研究成果をまとめ,報告書として,論文として刊行していくように努めたいと思います。
この5年間の研究にご協力いただいた多くの皆様に心からの感謝を申し上げます。







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