今年度より筑波大学に帰任しました。
2016年1月より2019年3月まで,文化庁にて文化財調査官として勤務し,3年3か月間ぶりに大学に帰任いたしました。
文化庁では世界文化遺産室に所属し,世界遺産の新規申請と既に登録されている世界遺産の保存管理等の業務を担当しました。
3年前に異動した直後には,世界遺産に申請していた「長崎の潜伏キリシタン遺跡」の取り下げに関する検討をしている最中でもあり,世界遺産にかかる業務の重圧を痛感する日々でありました。
その後,私が勤めている期間には,ル・コルビュジエの建築作品(国立西洋美術館),沖ノ島,長崎の潜伏キリシタン遺跡が世界遺産に登録され,長年にわたり世界遺産登録に精魂込めて尽くしてきた自治体担当者,地元関係者,有識者の方々の喜びの場に居合わせることができたのは幸せな経験となりました。
複数の自治体が世界遺産の登録に向けて今も検討を継続されていますが,それぞれが明確で正しい答えのない世界遺産の推薦書作成にあたっての様々な困難と長い道のりであります。しかし,それだからこそ,これまでには不確かであり,ややもすれば分かりにくく専門的にすぎる遺産の重要性を鋭く端的に描き出すに至るのでしょう。
世界遺産への登録には功罪もあるかもしれませんが,登録の過程にあたって,できるだけそれらの文化遺産とその周辺環境にとってその後の長期にわたっても有益なものとなるよう,工夫していくことが必要であり,そのために少しでも貢献できればと思いつつ業務に勤めてきました。
登録された世界遺産にあっても,国内の保護法とはやや異なるスタンダードを要請されることもあり,国際的な遺跡保護の理念と,国内での保護体系との間での調整に苦労することがあったように感じます。国際的な動向を受け止め,柔軟に導入していくために少しずつですが,変化が求められますし,またそれによって国内の保護のあり方が発展してきた事実もあると思いますし,同時に日本が培ってきた文化財の保護に関する考え方を丁寧に世界に発信していくことも必要でしょう。
この三年間余では,様々な課題を認識することでほぼ精一杯であり,こうした課題を解消するために寄与できた部分はごく限られたものでありましたが,今後時間をかけてそれらに向き合っていきたいと思います。