百舌鳥古市古墳群の世界遺産登録

 アゼルバイジャンで開催されている第43回世界遺産委員会にて「百舌鳥・古市古墳群」が世界遺産に登録されました。日本では23件目となる世界遺産です。日本の世界遺産登録はこれで7年連続になりますが,昨年の「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」や一昨年の「沖ノ島」,そしてさらにその前年の「ル・コルビュジエの建築作品」においては諮問機関であるイコモスとの見解の不一致を乗り越えての登録であったこととは大きく異なるものでした。今回は世界遺産としての顕著な普遍的価値,評価基準の選択,資産の選択,真正性や完全性,保存管理のあり方について,確実な評価を得た上での登録でありました。

  

 

こうした高い評価を得た理由としては,今回の推薦資産である古墳が,日本における長年にわたる精緻な考古学的研究の蓄積の上に,人類史における貴重な物証であることを証明し得たところが大きかったものと思われます。4549基の古墳よりなる世界遺産であり,かなり多くの構成資産よりなるシリアルノミネーションですが,全ての資産が世界遺産として認められたのは,巨大な墳墓が古代の日本に築造された,というだけの価値ではなく,大小の墳墓が群として形成され,往時の社会政治的な構造を読み解く重要な物証となっている,という主張が受け入れられたからでありました。考古学的な解釈が,高い蓋然性を有する事実として受け入れられる充実した研究の蓄積があったことによります。

 

  

もう一点,高い評価を得た理由として挙げられるのは,資産が市街地にありながらも世界遺産として適切にその環境を維持・形成していくための体制や制度,仕組みに対する信頼が得られたことにあるでしょう。遺産の保全と,その内部や周囲に住まう人々の生活環境としての開発とをいかに両立させるのかは,今回の世界遺産委員会においても重要な論点の一つです。百舌鳥・古市古墳群では,緩衝地帯に二段階の規制地区を設け,確実に遺産の価値を保護していくことを示しており,諮問機関そして委員国からもこうした前向きで積極的な取り組みが高く評価されたものと考えられます。

 

  

登録の決議文書では,資産周辺における開発案件に対して,世界遺産の価値に与える影響を適切に評価し,古墳にふさわしい環境を維持する仕組み作りが求められました。この課題への対応は簡単なことではありませんが,日本であればこうした困難を乗り越えて,世界の模範ともなりうる解法を実現できるだろうという,高い期待感があったことと思われます。世界遺産「富士山」においても,様々な課題を抱えて世界遺産に登録されましたが,こうした課題に対して見事な取り組みを示し,世界からの称賛を得た実績があります。

 

 

百舌鳥・古市古墳群においては,世界遺産を有する都市や地域がどのようにして地域の生活や経済の向上と遺産の価値保存を両立させていくことができるのか,その模範ともなるべきあり方を世界に向けて発信していくことに強い期待が寄せられているといえるでしょう。ぜひ今後もこの遺産を通じて世界遺産の意義と難しさを学んでいけたらと思っています。