インドネシアの世界遺産であるボロブドゥール寺院では,1970-80年代にユネスコを中心とした国際的な修復事業が行われました。石積みの寺院のほぼ全てが解体され、鉄筋コンクリートの基礎の上に再び石積みを再構築するという大規模な修復工事によって、ボロブドゥール寺院は建立当初の姿を取り戻しました。その後,回廊の壁面に彫刻された浮彫の石材劣化が進みつつある状況が懸念され、インドネシア政府は石積み構造内に防水層を追加する工事を2003年より2013年にかけて段階的に実施しました。
修復工事より30年が経過し、ユネスコは寺院全体の構造的安定性と浮彫の石材劣化を評価するミッションを実施することとなりました。この評価ミッションでは2012年から2015年にかけてインドネシアの専門家と共同で6回にわたる現地調査を実施しました。石材劣化についてはドイツのHans Leisen教授が担当し、構造安定性評価は下田が担当しました。以下が主要な取り組みの内容です。
1.過去のモニタリングデータの検証
インドネシア政府によるボロブドゥール保存事務所の専門家は、過去の修復時に定められた各種のモニタリングを継続し、そのデータを蓄積していました。降雨量や蒸散量、温湿度、風速風向、日射量、地下水位、寺院周辺の流水量と浸食土量等をはじめとする環境データ、トラバース測量や下げ振りを利用した寺院全体と各所の構造挙動データ、写真観測による石材劣化データ等がその主たる内容でした。特に環境データに基づく気象イベントと構造データによる変動の関係について詳細に分析し、有意な変状の有無について検証しました。
2.新たな構造挙動モニタリングの手法開発と実施指導
構造挙動の観測方法は既に30年前の仕様でしたので、これまでの方法に加えて、新たな技術や機材を利用する方法を追加することとしました。具体的には、測量機器の更新、より誤差が抑えられるトラバース測量の導入、遺構周辺の定点から直接石積み各所の挙動を観測するノンプリズム型の測量を用いた観測システムの導入、高精度GPSを利用した挙動観測の導入、ボーリング孔を利用した基壇内部の変位測量の導入、寺院周辺の流水量観測の導入等を行いました。また、現地技術職員にこれらの観測の技術指導を行い、それらの定期的観測体制を整えました。
*本事業の概要を紹介する冊子はこちらよりご覧ください。
*2012年6月時のミッションレポートでは過去の修復工事とモニタリングの概要を紹介しています。
SHIMODA Laboratory
World Heritage Program, Graduate School of Comprehensive Human Sciences, UNIVERSITY of TSUKUBA