日本国政府アンコール遺跡救済チーム(日本ユネスコ信託基金による事業であり団長
中川武先生のもとに実施)は、1999年から2005年にかけてアンコールワット寺院最外周壁内北経蔵の修復工事を実施しました。アンコールワットは過去にフランス極東学院とインド考古局による大規模な修復工事が行われており、ここ北経蔵も同様の修復履歴がありました。こうした条件のもとに、以下の目的が策定され、修復工事が実施されました。
1)過去の修復の実態を解明し、再修復の技術と理念や、適切な修復サイクルを提案する
既設の基壇内部の構造補強や、既往の石材修復を最大限活かした修復としました。
2)真実性に配慮して適切な崩落部材の復原設置の在り方を提案する
建物周辺の800個の部材から450部材の原位置を明らかにし、そのうち310部材を再設置、新材190部材を追加しました。
3)石材の劣化・破損状況とその原因解明と石材保存技術の開発を図り、包括的な記録を作成する
建物各所の砂岩部材の劣化原因を学際的に究明し、石材保存の処置技術を開発しました。また、全修理部材のデジタル記録を作成し、将来的な修復時に利用できる資料を作成しました。