バイヨン寺院の堆積土クリアランス調査他

バイヨン外回廊の基壇周辺の堆積土砂のクリアランス調査は約2週間を経て,作業の約半分を終えました。私は一か月程の滞在を終えて帰国となりましたので,これまでの経過報告です。

 

1930年代に撮影された写真では,ここに堆積土は認められず,その後の時代になぜ土砂が積み上げられることになったのかその経緯が不確かでした。今回の調査によって,この土砂には多量の砂岩チップが含まれていることが確認されました。

こうした砂岩チップは建設工事の石材加工によって排出するものと考えられ,基礎の版築土内に多く含まれていることが一般的ですので,これらの土砂はバイヨン寺院内で基壇内部の発掘調査がされた際の排土であると考えられます。

しかしながら,土砂にはバイヨンの(あるいは少なくともバイヨン時代の)様式を示す装飾が彫刻された石材片も多数含まれていました。また,徳化窯や龍泉窯のものに推測される13世紀以降の中国陶磁器も数点認められました。

このため,この排土の出自は12世紀後半から13世紀にかけてバイヨン寺院が当初築造された際の基壇内部の版築土だけではないことも確かです。

おそらく,過去の発掘時にバイヨン寺院内に堆積していた土砂と発掘調査による土砂とが混ざってここに廃棄されたというのが妥当な推測になるでしょうか。

 

 

あと2週間ほどでこの作業を終えることになりそうですが,堆積土の除去が終わり次第,基壇と欄干の修復工事が始められる予定です。

こうした作業の途中でいくつかわき道にそれた調査もありました。

 

2つに割れたライオン像が同一個体であったかどうか。。。

 

帯磁率や層理面方向の調査の結果,これは同じ彫像であったことがほぼ確かめられました。

アンコール遺跡群の北側の遺跡修復に従事している作業員が多く住むアンコール・クラウ村やリエン・ダイ村では,古代の水路の改修工事が進められています。数年前にシェムリアップ市内で生じた大洪水の後に,その対策として古代の水路を浚渫したり,護岸を整備したりする大掛かりな工事が開始されたようです。工事によって水路のレベルが変えられている部分もあるようですが,微細の勾配を利用した分水の仕組みがうまく機能しなくなっている現状があるとのこと。

遺跡周辺の農家の中には,この工事によって農地に水が引き込まれなくなったことを訴えている人たちもいます。特に今年は降雨量が少ないということもありますが,工事の影響もありそうですので,今後の経過を注意して観察しておく必要がありそうです。

今回は私にとっては約4年ぶりの調査になりましたが,多くの先生方や旧友と久しぶりの再会を果たすことができました。この数年の間に,アンコール遺跡もサンボー遺跡も状況が変化している部分も少なからずありましたが,自身にとってこれまでの研究テーマの延長線上にありつつも,現状で必要とされている課題を把握し,その解決に寄与できる活動に取り組んでいけたらと思います。