COVID19の中で

新型コロナウイルスによる自粛期間が1か月を超え,まだ先行きが見えない状況が続いています。大学での講義はオンライン,ゼミも週一回ズームを利用しての実施が続いています。今年度採択された海外事業についてはどのように実施すべきか悩ましい所ですが,年度の後半に実施ができることを願いつつ,現地と調整をしてもう少し様子を静観したいと思っています。

 

自宅待機が続く中,3月にはこれまで手を付けることができず気になっていた報告書や論文に集中することができました。カンボジアの煉瓦造遺跡の修復工事の報告書を作成するとともに,それに関連した論文を作成するなどの期間となりました。

 

4月からは大学の講義オンライン化が確定し,その準備に追われる日が始まりました。特に今年度より担当することとなった文化遺産論の講義は,一からの準備でもあり,これまで1か月半程の期間をこれに充てることとなりました。

 

当初は,文化遺産の保存,活用について幅広く議論をしながら講義をする予定でいましたが,オンラインではなかなか双方向での質疑が活性化しないという現実もあり,一方通行ではあるものの,この機会にしっかりと基礎知識を備えてもらうための講義にすることとしました。

通常の教室での講義とは異なり,準備したPPTとともにPCに向かって話しかけることになりますが,学生との対話や余談へと外れることがないため,結果的に講義の情報量がかなり多くなります。

講義の時間中,ほぼずっと話し続けることとなり,相当な準備が必要となりました。

 

準備にあたっては,様々なことを調べることとなり,これまでなんとなく分かったつもりでいたことを根拠資料をあたって整理することで自分なりにしっかりと消化することができた部分も多く,有意義な過程であると感じますが,しかし掘り下げればそれだけにまた新しい課題や分からない部分が出てくることも確かで,時間に追われて講義の準備をしつつ,新しい興味が棚上げされて次に進んで,という部分も少なからずありました。

 

講義においては,文化遺産のより総合的な保存と活用のあり方を考える内容とする部分が多くを占めましたが,行政における各種の制度や事業について丁寧に学べるよう準備をしています。

文化財類型ごとの指定や保存の制度,伝建地区制度,登録文化財制度といったベースとなる部分の上に,歴史文化基本構想,歴まち法,日本遺産,また2018年の法改正に基づく地域計画や大綱作成の内容や現状等,ここ10年ほどの様々な仕組みについて複数の事例を通じてかなり詳細に講義を整えました。

そうした各種制度が相互補完的なものであることは一定程度理解されるのですが,重複している部分,方向性として矛盾を抱えている部分もあるように感じられ,それらをしっかりと理解するためには,これまでに策定されていた個別の事例をより網羅的に紐解き,効果と課題を整理し,できれば作成された各地の文化財担当者からの話を伺う機会を設けることが必要であるように感じています。

一体としてそれらが策定されることが期待されつつも,選択的に策定されている実情をどのように理解すべきか,また文化遺産の保存や活用のために準備されている各省庁からの補助メニューと紐づけるためにはどの制度や事業が効果的なのか,そのあたりを分かりやすい形で整理しようと試みましたが,今年度の準備では時間切れとなり,今後少し時間をかけて整理したいと考えています。

また,文化遺産として捉えられる裾野を広げ,より広義に柔軟に文化を捉えていこうとする全般的な方向性の中で,世界遺産の功罪についても考えさせられることが多くありました。

 

一連の講義においては,文化遺産保護のための行政的な仕組み,制度論に関連する部分が多くなった感はありますが,それらの枠組みの上で各種事業が計画・実行され,そこで保存や活用の理念や実践が議論されることを考えると,こうした基本となる部分を最初の講義で抑えてもらうことが必要だとも思われます。学生の方々が,それぞれのより発展的な研究に取組むベースとなる知識と問題の所在をしっかりと理解してもらえる講義になるよう努めたいと思っています。