ボロブドゥールは曼荼羅か?

インドネシアのジャワ島に位置する仏教寺院ボロブドゥール。これまでに,この石積み遺構の構造評価のために何度も現地を訪れて調査を重ねてきましたが,このたび,この寺院がどのような構想で創られたのか,これを考える機会がありました。

 

ボロブドゥールについては長年にわたって多くの研究者がこの謎に迫るべく思考を深めてきており,実に多くの書籍や論考が重ねられています。その中で,この大遺跡はストゥーパであって,曼荼羅であった,そして山岳信仰の磐座的場であった。という考察が深められてきています。

 

中でも,2000面以上の浮彫パネルの場面比定に関する研究と,504体の仏像の尊格比定に関しては様々な説があって,それらの議論は興味が尽きません。仏教学への造詣の深さが問われるこの議論に加わるようなことはできないのですが,これまでの説を読み比べると,自分なりに筋の通ったものとそうでないものとが併存していることがうすうす感じられてきます。

 

中でも6種の印相を結んだ仏像の尊格については,これまで日本の一般書では定説化されている考えが,かなり疑問符のついたものであるものだと感じられました。ボロブドゥールが来訪者を悟りへといざなうことを貫徹して目的としているのであれば,上段に位置する2種の仏像の尊格は定説とは異なって,最上段に毘盧遮那如来,2段目に釈迦牟尼如来となるだろう,というのが私なりの結論となりました。

 

ボロブドゥールにおいては,造営の思想的背景を探るための議論のきわめて厚く蓄積されており,そこには日本の研究者が重要な役割を果たしていますが,これはやはり日本において密教が重要な意義を持っているからでしょう。アンコール遺跡では世界的にも,寺院のパンテノンに関する研究はまだ不十分で,日本人の参画はほとんどありません。しかし,潜在的には伸びしろの大きな分野でありそうです。