日本とカンボジアの専門家間を繋ぐ国際交流・研修のオンラインプログラムを10月6、7日と11月10~13日の2か月にわたって実施しました。このプログラムは、文化庁令和2年度文化遺産国際協力拠点交流事業として筑波大学が委託された「カンボジア,サンボー・プレイ・クック遺跡群の保存・修理のための人材育成事業」の一部として実施したものです。当初は、カンボジア人専門家を日本に招致して行う予定でしたが、コロナ禍の状況下にて、代替案としてオンラインで実施することとなりました。
サンボー・プレイ・クック遺跡群は、真臘国の王都として7世紀に最盛期を迎えた都市遺跡で、アンコール遺跡群で有名な古代アンコール王朝の前身となる勢力によって築かれました。2016年には世界遺産に登録され、遺跡群を管理するための国立機関が設置されました。この組織には20数名の専門家が配置され、遺跡群の研究、修復、管理、観光整備、地域環境の改善等の業務を担っています。日本においても7~8世紀は、藤原京、平城京等の都城造営を伴う国家形成の躍動の時代であり、両国は共通した歴史感覚を持っています。
本プログラムでは日本におけるこれら宮都での長年にわたる組織的な考古学的研究や整備の実績、活動の組織体制や関連施設を紹介し、カンボジアにおける同時代の都市遺跡の中・長期的なマスタープランを両国の専門家間で検討しようとするものです。というのも、この遺跡群では世界遺産への登録以降、保全状況報告の対象となり、その主要な課題として管理計画の策定が要請されているためです。
10月のプログラムでは、奈良県立橿原考古学研究所よりご協力いただき、研究所の活動や施設、そして飛鳥の苑池跡での発掘調査の様子をオンラインで紹介しました。11月は奈良文化財研究所からの協力を得て、主として平城宮跡における研究や整備事業を紹介しました。
6日目となる最終日には日本とカンボジアの専門家間で都市遺跡の研究や保存計画の立案に向けた協議を行いました。
オンラインプログラムはZoomを利用し、スライド等を利用した座学や室内での情報共有の時間も設けましたが、メインとなるのは広角カメラが付いたスマートフォンを利用して研究所の所内や発掘現場等を移動しながら紹介し、専門家間で対話して交流するプログラムでありました。
オンラインのプログラムでは、野外からの講義ではインターネットの接続が若干不安定となることもありましたが、ほとんどのプログラムでは鮮明な映像と音声を届けることができました。ネット環境が十分に得られないところでは、事前に解説付きのビデオ撮影をしてそれを、オンラインで流して視聴してもらうなどの工夫もしました。
カンボジアの専門家からの活発な質問もあって盛況なプログラムとなりました。当初は5名の専門家を日本に招致して実施する予定でしたが、オンラインによるプログラムに変更したことで、コストの問題が解消したことから、カンボジアの複数地域より16名の専門家が参加しました。また最終日には、他にも多くの専門家に各地より参加していただくことができました。特に、若手の専門家に多く参加してもらうことができたのはオンラインによる大きなメリットだったと思います。
現地を訪問することによる五感と対人の温かみがある交流経験には及ばない点も多く、今回も保存処置をした遺物の手触りを体感できない等の限界もありますが、オンラインでも予想以上の効果を上げることができることを実感しました。
あとは公式のプログラムの後にオンライン懇親会で盛り上がることができるように工夫したいな、と考えています。アイデアがありましたらぜひご連絡を!
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