三星堆遺跡の視察

成都の中心地から北に約40kmに位置する三星堆遺跡を案内していただきました。この遺跡群は最近の発見によって中国6大歴史遺産の一つにも位置付けられることとなった紀元前17~13世紀頃の祭祀サイトを中心とした古代遺跡は、来年の世界遺産申請を目指して、研究と整備が急ピッチで進められていました。

1986年に煉瓦の採土作業で2基の祭祀遺構が発見された後に注目を集め(1929年に既に最初の発見はあったようですが)、発掘調査が断続的に進められてきましたが、2019年に新たに複数の祭祀遺構(ピット)が発見され、中国全土の考古学会が総力を挙げて共同体制での調査が実施されたとのこと。

今回、調査を終えたばかりの発掘現場を視察させていただく機会を得ました。覆屋の下に完全密閉の調査室が設けられていました。研究者は遺構面を踏むことなく発掘し、遺物を取り上げることのできる機械制御のリフトを備えた施設がそれぞれの祭祀遺構毎に設置されています。各調査室には9基の固定カメラと移動式カメラがリフトに設置され、発掘調査の様子はコロナ禍でありながら、インターネットで世界公開されていたとのこと。中国では各ピットの調査で大きな注目を集めていたようです。

いずれのピットからも多量の祭祀品が出土しており、それらは7月末に開館する予定の博物館に付属する研究保存施設で保存処置と分析を待っているとこと。博物館には過去の出土品も含めて20万点が保管され、全ての処置を終えるのに20年はかかると見込まれているようです。祭祀品は、青銅器、玉類、象牙が多く、高い制作技術要する品々であるばかりでなく、遠方との交易の証左となるものも少なくないとのこと。

この祭祀遺構は3.6㎢の地区を取り囲む幅30-50m、高さ5m程の土塁の中に位置しています。この土塁は都市の外郭構造をなすばかりでなく、都城内にも一部確認されており、分節された都市構造であったことも推測されています。また、一部には掘立柱構造の遺構も検出されており、王宮もしくは住居址とされています。

三星堆遺跡を訪れた後に、その約20km南に位置する金沙遺跡上にある巨大な複合博物施設を見学しましたが、ここでも祭祀遺跡に近接して住居地区と墓域が確認されていることから、三星堆遺跡群の土塁内にはこうした居住地区も存在していたことはほぼ間違いありませんが、現在までこうした調査はほとんど行われておらず、さらなる研究対象としての潜在性は計り知れないものがあります。

なお、金沙遺跡は三星堆遺跡と併せてシリアルノミネーションとして世界遺産登録の構成資産になるとの話もあります。

三星堆遺跡の城壁地区内には現在約3000人の住民がおり、多数の家屋もありますが、行政はこうした住民との関係構築に長い時間をかけてとりくんできたようです。現在は希望する住民に対しては外部の土地と住居を提供し(家族1名あたり35㎡の住居)、また住民が移住した後も田畑も放棄地とならないように農業管理組合が維持する仕組みを設けて、地下遺構の保護と地域社会の活動との両立を図っているとのこと。

土塁に囲繞された都市のすぐ外に位置する博物館は既存の展示施設を映像展示施設として、新たに大規模な博物館施設が工事中で、開館まであと1か月と迫る中、急ピッチで内部の展示設営が進められていました。博物館は磯崎新と中国の建設会社の共同設計であり、もしかしたら磯崎新による最後の作品に位置づけられるのかもしれません。博物館のデザインは青銅製の仮面型青銅品の大きな目と遺跡群の象徴的な3つのマウンドがファサードの大型ガラス面と緩やかなカーブで表現されており、大地のメタファーとなる石貼り面と青銅の素材感で構成されています。

博物館の建設事業に続いて、遺産発信と地域活性化の複合事業も計画されており、総数4000部屋に至る多様な宿泊施設(コテージ式、ファミリー式ホテル、高級リゾート型ホテル、、、等々)、地域文化発信と体験施設、アミューズメント施設等が盛り込まれる予定とのこと。興味深いのはこうした総合文化計画の策定を国際的なコンペによる競争事業としたという点で、中国でも初めての企画になるとのこと。地域活性化のアイデア、経営マネジメントのアイデア、建築・スペースデザインのアイデアといった三方位に対して、総合的な企画が求められたこのコンペには、30組以上の国際的な合同企業が計画案を提出されたようですが、一回目の競争では全ての案が不十分とされたようで、大幅に対象企業を絞り込んで2回目の案が集められ、7月末に最終結果が開示されるとのこと。どのような総合的な計画案が提示されるのか、たいへん興味深く、またこれが実現することで地域がこの古代遺跡を核にどのように活性化していくのか注目されます。

膨大な出土遺物に対して、その実態については多くが謎に満ちた古代三星堆遺跡ですが、間違いなく人類史の初期文明の特別な段階を示す痕跡です。その謎の解明にかかる総合知を体感した興奮に満ちた一日でした。