Kasetsart大学のPatiphol Yodsurang先生が取り組んでいるタイの伝統的な水辺空間の調査に2日間参加させていただきました。
彼の調査はカヤックで河川や水路を巡って行うもので、かつてはこうした水路が生活の基本動線であった集落を研究する最適なアプローチです。今回は2日間にわたってバンコクの西方約70kmに位置するラチャブリーの伝統集落と、アユタヤ遺跡の環濠を訪れました。
ラチャブリーの伝統集落では、かつて農業用水と交通インフラとして水路網が築かれ、水路に沿って集落が形成されており、今でもとても美しい伝統住居が水路側を正面として点在しています。近年では、こうした水辺空間に新しい宿泊施設も作られ、カラフルで可愛らしいデザインの建物もときおり見られます。
タイにおけるこうした伝統的な水辺集落の多くは、1950年代にアメリカからの大規模な経済支援が進む中、道路網や治水施設が整備され、急速に失われました。今回訪れた集落では今でも相当数の伝統的な民家が残されていますが、空き家になっているものも増え、また屋根葺き材料はトタン材に変化することで室内温度が上昇し、エアコンが導入されるようになる等、少なからぬ変化が生じています。
現在ではタイ国内の一部の集落においてこうした集落形態や景観が残っているようですが、文化遺産としての認識は希薄で、また観光目的地としての利用も地域住民の高齢化やコロナ禍で下火になっているといいます。
アユタヤはロッブリー河、バサック河、チャオプラヤ河が合流する水上交通の要所であり、それらを人工的に接続して周回した約13kmの環濠に囲まれた地域が王都とされていました。今でも、たいへん美しい多くの仏教寺院や西洋教会を水上から眺めることができます。
しかしながら、2011年の大洪水によって、水辺の遺跡や住居に深刻な被害が生じ、こうした水辺空間の伝統的な利用は大幅に改変されることとなりました。アユタヤ周囲の水路沿いに位置する寺院では、船を利用した寺院めぐりが慣習となっていることから、そうした寺院は水辺に船着き場を持ち、環濠との接続を維持していますが、それ以外の多くの住居や飲食店は水辺からのアクセスはほとんど実用的には失われてしましました。一周13kmの環濠巡りにおいても、観光船や寺院めぐりの数隻と出会うことはありましたが、水辺での生活の様子はほとんど見かけることはありませんでした。
しかしながら、こうした水辺の集落や寺院景観の美しさは今でも部分的に残されており、こうした景観や生活を継承していくことができれば、地域の人々と来訪者の安らぎの場になることと思います。
2日間にわたり、カヤックの旅に参加させていただきPatiphol先生ありがとうございました!
コメントをお書きください