本研究室では、建築遺産の価値を深く掘り下げ、守り、未来へ活かすことを目指して、研究と社会実践の両面から取り組んでいます。
現在、特に力を入れているテーマや関心分野は以下の通りです。


歴史的まち並みの保全と地域づくり

日本やアジアを中心とした海外の歴史的な建物や歴史的まち並みを「未来にどう活かしていくか」というテーマに取り組んでいます。

具体的には、以下のような問いを扱っています:

 

  • 歴史都市や伝統的集落における修理や修景
     建造物の修理や改修のデザインや工法、制度上の課題を分析します。

  • 文化政策による歴史資源の再評価とクラスター化
     「歴史文化基本構想」や「日本遺産」などに注目し、政策と地域の関係を考えます。

  • 建築遺産における“本物らしさ”と観光活用の両立
     「真実性(authenticity)」と「活用」との間にあるジレンマを探ります。

  • 地域住民の遺産保護への参画
     持続的な保護のための地域参加の仕組みを実証的に検討しています。


東南アジアの歴史的建築・都市の研究と保存

カンボジアを中心に、タイやラオスなどに広がる古代アンコール王朝の建築と都市の痕跡より、当時の信仰・社会・政治・文化の様相を明らかにしようとするものです。建築学と考古学、都市史、地域文化研究と連携し、現地でのフィールドワークや国際的な共同研究を通して、多角的な研究を進めています。また、こうした歴史的建築や古代都市の保存にも取り組んでいます。

 

  • 歴史的建築から社会と文化の解明へ
     最近では都市遺産を対象として環境考古学と連携して社会背景の解明に取り組んでいます。

  • 遺産の共同調査と保存・管理計画の支援
     国際協力の枠組みにて発掘調査・測量や保全提案を実施しています。

  • 若手研究者・技術者との共同研究・トレーニング
     フィールドワーク、デジタル記録、保存計画の策定を通した人材育成に取り組んでいます。


遺産の保存活用のためのデジタル技術の適用

私たちの研究室では、建築遺産や歴史的な空間を次世代へ伝えるために、最新のデジタル技術を活用した記録・保存・活用の方法を探っています。文化遺産をただ「残す」のではなく、より深く理解し、誰もが触れられるかたちで活かすためのツールとして、デジタル技術は大きな可能性を持っています。

  • 3Dスキャン(レーザースキャナー・フォトグラメトリー)による遺産の高精度記録
     ドローンや移動式デバイス、多様なソフトウェアを利用した大規模遺産の記録等

  • 3Dモデルや点群データの文化財管理・修復計画への応用
     修復前後の比較、モニタリング、研究データの蓄積などのためのデジタルツインの構築

  • VRやARによる歴史空間の再現と体験設計
     現地に行かなくても体感できる「遺産の臨場感」を追求

  • Webや展示でのインタラクティブな遺産紹介
     教育・観光・研究に向けたインタラクティブなコンテンツ化


歴史的建築を活かした観光・まちづくり

歴史的建築には、地域の記憶、人びとの暮らし、技術や美意識といった多様な価値が刻まれています。こうした歴史的建築を地域資源として活かす観光やまちづくりのあり方について、研究と実践の両面から取り組んでいます。

  • 歴史的建物の保存と利活用の実態調査
     保存地区における歴史的建築の利用実態の調査を通じた活用の実例と課題の検証

  • 観光拠点となる建築遺産の創造的活用法
     多様な来訪者に開かれたインクルーシブな機能をもつ拠点としての建築遺産の提案

  • 歴史的建築を活かしたまちづくりの提案
     修景や空き家再生、町家活用など、歴史建築を現代に活かす方法の提案

  • 地域の歴史を伝える観光デザイン
     建物や場所に込められた物語を発掘し、観光や教育に活かすルートや展示方法の創造


世界遺産学における建築遺産の探求

世界遺産学は、まだ新しく、発展途上にある学問分野です。日本国内で培われてきた文化財の保護技術や制度と、ユネスコの「世界遺産条約」に基づいて形成された国際的な遺産保護の考え方とが出会う場でもあります。そのため、時に価値観の違いや制度のズレが生じることもありますが、私たちの研究室では、社会と文化遺産の双方にとってより良い未来を築くために、持続可能な保存と活用のあり方を探求しています。

  • 整備や復元をどう進める?
     文化遺産としての「本物らしさ(真実性)」を守るための方法論

  • 何をもって価値があるとするか?
     建築遺産の評価軸や、価値を伝えるための視点の設定

  • 世界遺産にふさわしいと言える根拠は?
     建築遺産の「顕著な普遍的価値(OUV)」を示すための実践と方法

  • 危機にある遺産をどう守るか?
     自然災害や戦争など、非常時の文化財保護のあり方

  • 複合的な文化遺産の保存・活用の仕組み
     建築遺産を軸に、まち・祭り・人々の暮らしまでつなげる取り組み